輪廻 三:終末の彼岸
22. The Gaze of Orpheus(オルフェウスの回眸)
オルフェウスは冥府へと降り、妻を探す。彼の竪琴の音は鉄や石さえも揺り動かす。冥王ハデスは妻を連れ帰ることを許すが、冥界を出るまでは決して振り向いてはならないと命じる。だが人は愚かで脆い存在であり、オルフェウスは振り返るようにできている。「ハデスはこうなることがわかってたのか」―それとも、はじめから神の仕掛けた罠だったのだろうか。
オルフェウスの眼で振り向き、失われた楽園を見る。あなたと共に舞うはずだった願いを見る。だが楽園はすでにない。ただ遠い屠殺場へと駆けてゆくしかない。鳥は飛ばぬまま、死んでいる。
23. Sacrifice(犠牲)
Sacrifice―犠牲、あるいは供犠。
もし神が存在するなら、供犠はただの取引にすぎない。もし神が存在しないのなら、供犠は一方的な遊戯にすぎない。ゆえに神聖は存在しない。残るのは人の意志だけだ。
だが愛もまた供犠である。その存在を信じ、自らを差し出すこと。
徒労に終わるかもしれぬ努力を、なお選ぼう。氷雪の下で楽園を芽吹かせよう。たとえそれが、映写機の効果音がほのめかすように、夢の中の夢にすぎないとしても。
24. Torture in Heaven(天国の拷問)
鳥はさえずり、万物は甦り、楽園は訪れる。だがあなたがいないのなら、天国も地獄も変わらない。
夢はいつから真実でなくなるのか。それは、信じなくなったときだ。
25. Fire on the Lethe(レーテーの上の火)
忘却を拒む。記憶はレーテーをかすめ、ささやく。あなたを忘れはしない。楽園の孤独は、耐えがたく重くのしかかる。Tr13. RENDERING THE TWO SOULS が混沌の中で魂を再発明したように、わたしたちも忘却の中で愛の記憶を再発明できる。レーテーを燃やし、時空を渦へと焼き上げ、あなたのいるあの次元へと通じる。
26. Möbius(モビウス)
Tr26. Möbius は Tr10. Petals Full of Holes と「ワームホールみたいに時空を超えて繋がってる」。

Tr10 の終わりでは、「星/宇宙の真裏をめくりあげ」。Tr26 の冒頭では、「めくるめく星の裏側に」現れる。ワームホールを抜け、Tr10 で「すれ違った」主人公たちは、ついに Tr26 で「百年に一度/すれ違う/ひかりの丘で会える」。
このワームホールこそ、モビウス環の中心である。

図:白乐寒
「あれから宇宙は外側へ/恋は内側へ拡大し/メビウスすべてを飲み込んで/なにひとつなくなってしまった」
宇宙は熱的死へ向かい、愛は特異点へと縮む。物語はそっと巻き上げられ、モビウス環として連なる。オルガンが響き、心臓は打ち始め、肉体は形を成す、未知の運命へ向かう。モビウス環の中心は、迷宮の分岐する小径へと通じている。
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